質の高い定性データを集めるには
前の記事で、質の高い定性データを集めるには、「ひとりの顧客を深堀りする」のがいいのではないか、と言いました。
記述式のアンケートなどで集まる定性データは、様々な要因から信頼性を担保できない可能性があります。また、座談会などでも、背景や文脈、空気を「読む」という要素がどうしても入ってしまうため、信用していいものか、検討の余地があるでしょう。
質の高い(信頼に値する)定性データを得るための、「ひとりの顧客を深堀りする」とは、どういうことでしょうか。
ひとりの顧客、とは
深堀りする対象となる、「ひとりの顧客」。どの「ひとり」にすべきでしょうか。
ここで、既出の顧客分類マップを再掲します。
上記の図で、どこの層の「ひとり」を深堀りすべきかというと、【5】と【6】ではないかと私は思います。
- 購入はしていないけどファンの人(遠巻きのファン)
- 絶賛購入中でファンの人(サポーター)
このふたりです。
この人たちは、製品なりサービスを全然知らないところから知り、共感し、だんだん好きになって、そしてファンになります。この、知らないところからファンになっていくステップをつぶさに見ることができれば、それは非常に有用な定性データとなります。
現代マーケティングの重要な目的は、まさに「ファンになってもらう」ことですから。
そして【5】ファンだけど買わない人 は、ある意味【6】より興味深いです。
特に利用していないけど、なんか好き。
こういう人の心理を知ることができれば、ファン化施策の手がかりや【5】→【6】へステップアップしてもらうアイデアの取っかかりになる可能性が高いです。
もちろん、ファンではない【2】昔の客【3】見込み客【4】常連客のうちのひとりを深堀りするのも有用だと思います。【1】は商品・サービスのことを知らない人たちなので、多くの場合深堀りする必要はなさそうですよね。
ひとりを深堀りする方法
「カスタマージャーニーマップ」という言葉があります。
顧客の日常生活を想定し、その人がどのタイミングで商品と出会い、どういう事を考え、行動し、どのように購入に至ったかを図で可視化する。というやつです。
このカスタマージャーニーマップの考え方は、「ひとりを深堀りする」のに使えます。
ただ、注意が必要です。
カスタマージャーニーマップを作るには、顧客の日常生活を想定しなくてはいけません。ここで想定される「顧客」はペルソナと呼ばれます。
このペルソナは、「実在の人物にすべし」と私は思います。
架空の人物をペルソナとして想定しても、その行動パターンは想像の域を出ません。自分たちのいいようにペルソナの日常生活を作ってしまいます。
「ひとりを深堀りする方法」ここで結論をいいます。
実在の人物をペルソナとして設定し、その人のカスタマージャーニーマップを作る
となります。
実在の人物に、いろんなことを訊きまくりましょう。そして、その人のカスタマージャーニーマップを作りましょう。できるだけ詳細に。
これができると何がいいかというと、「思わぬ気づき」が得られる可能性が極めて高い、ということです。
「思わぬ気づき」が得られる
実在の人物にいろいろ質問して、コミュニケーションをとる中で、その人のカスタマージャーニーマップを作っていく。これはおそらく骨の折れる作業ですが、そこでできたカスタマージャーニーマップは、質の高い定性データです。
その人が「どのように商品を知ったのか」「いつ思い出したのか」「なぜ買ったのか」「なぜファンになったのか」「なぜ買わないのか」ということが、リアルな声として取得できます。
そして副産物として、というかこちらの方がメリットとしては大きいはずなのですが、「思わぬ気づき」が得られます。
架空の人物のペルソナを深堀りしても、あるいは無機質なアンケートなどで定量データを集めても、自分たちが想像だにしていなかった「思わぬ気づき」を得られる可能性は低いでしょう。
ですが、実在の人を深堀りすれば、自分たち(製造側、販売側)が考えていなかったような要因が、カスタマージャーニーマップの中にいくつか出てくるはずです。
これを丁寧に拾い上げましょう。これは、マーケティング施策のアイデアのタネになります。
「自分たちはこう考えていたけど、お客さんは実はこう思っていた」
そういうギャップ的なものが出てきたら、チャンスです。積極的に吟味し、膨らませていきましょう。
「ひとりの顧客の考えを信じ切るのは怖い」という向きもあるかもしれません。ですが、不特定多数の均されたデータを拠り所にするのも、架空のペルソナを作ってしまうのも、同じように、いやそれ以上に怖いはずです。だいたいミスリードに結びつき、誤った計画が出来上がってしまいます。